- 03. Feb 2026 |お知らせ
IUU漁業を終わらせるために――政府・市民社会・ビジネスの協働
2025年10月3日、大阪・関西万博の民間パビリオン「ブルーオーシャン・ドーム」で、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の撲滅をテーマにしたトークセッションが行われました。サステナブルシーフード・サミット in 大阪(TSSS2025)の連携イベント「選んで守るサカナの未来Week」の一環で、「水産資源を枯渇に追いやるIUU漁業の終わらせ方」と題し、北太平洋における政府間連携による成功事例と、市民社会・ビジネスセクターの役割が紹介されました。
モデレーターを務めたシーフードレガシーの花岡和佳男さんは、「みなさん、IUUって聞いたことありますか? 違法・無報告・無規制な漁業が、世界の海、責任ある漁業に取り組む漁師さん、そして魚を食べている僕たちの生活を脅かしています」と呼びかけ、来場者の多くが「IUU漁業」という言葉を初めて聞く場で問題の所在を知ってもらう貴重な機会となりました。
水産庁の福田工さん
公海では、原則としてどの国の漁船も操業可能です。2015年頃、北海道や三陸沖合の日本の排他的経済水域(EEZ)と隣接する公海海域では、サンマやサバ、イカを獲る複数の国や地域の漁船が多数操業していました。
「そうした漁船が、日本のEEZの境界線にびっしり張り付くように操業しており、年間約300隻のこれら外国漁船のうち約70隻がIUU漁船と推測された」と福田さんは振り返ります。これらの違法漁船は船名を隠すためにペンキを塗ったり、船の左右で異なる船名を表示したり、別の船と同じ船名を使用したりするなど、取締りを逃れるための工作を行っていました。
状況を改善するため、2015年にEU、カナダ、韓国、台湾、中国、日本、バヌアツ、米国、ロシアの9カ国・地域が参加する「北太平洋漁業委員会(NPFC)」が設立されました。NPFCは2018年から公海上での乗船検査を開始。通常、公海にいる外国漁船に対して他国の取締船は検査に入れませんが、NPFCの枠組みにより、外国漁船への検査が可能となりました。違反が見つかった場合には旗国政府に対処を求め、対応しない場合にはIUU漁船リストに掲載して世界各国に周知するという仕組みです。
北太平洋漁業委員会(NPFC)の枠組みによる公海乗船検査について説明する福田さん
現在、加盟各国・地域から計84隻もの取締船が登録され、カナダ、韓国、日本、米国などが北太平洋公海に取締船を派遣しています。「世界的に見ても、ここまで緊密に取締り連携をしながら監視活動を行っている公海はないのではないか」と福田さんは強調し、この国際連携の成果として、「近年は典型的な違法漁船はほとんど見られなくなっている」と述べました。
カナダ漁業海洋省のニーアル・オディーさん
正規の漁業者の操業や生計を脅かし、生態系の破壊をもたらす、この問題の解決には、「優れたガバナンスと健全なモニタリング・管理・監視と法執行、そして国際協力が必要だ」とオディーさんは述べ、カナダの取り組みとして、「北太平洋警備活動(Operation North Pacific Guard)」と「IUU漁業アクションアライアンス(IUU Fishing Action Alliance、以下IUU-AA)」の2つを紹介しました。
北太平洋警備活動は、カナダと日韓米の多国間協力による公海パトロールです。3回目となった2025年、カナダの巡視船には日本の水産庁の職員も28日間派遣され、数百隻の漁船を監視し41回の公海検査を実施。サメのヒレだけを獲って魚体を生きたまま海に捨てるシャークフィニングや虚偽報告など、法規制の違反が疑われる事例が39件ありました。オディーさんは「協力して取り組むことが、監視を強化し、ギャップを埋める唯一の方法」と強調しました。
折しも大阪・関西万博が開催された2025年。5月から7月まで、洋上監視活動を実施したカナダ沿岸警備隊「サー・ウィルフレッド・ローリエ号」は、大阪港に特別寄港し、「乗組員は万博会場のパビリオンで一般の人々と交流することができた」とオディーさんは話しました。
北太平洋警備活動(Operation North Pacific Guard)について説明するオディーさん
IUU-AAは、IUU漁業の撲滅に向けた各政府、NGOをはじめとする多様なステークホルダーの連合です。「IUU漁業への対処のみに専念する唯一の国際組織として、公的機関と民間セクターを結集させるという点で独自のもの」で、「国内および国際的な取り組みを前進させるための政治的支援を得るべく、より広範な議論を支援する」役割を果たすとオディーさんは説明しました。
シーフードレガシーの花岡和佳男さん(左)をモデレーターにパネルディスカッション
IUU漁業の背景として、福田さんは、船の登録、許可の取得、監視機材の設置をはじめ「規制を守るにはコストがかかる」ことから、「利益だけを追求するとIUU漁業がいちばん儲かる」と述べました。しかし、これが横行すると水産資源を適切に管理することができず、また、正規の漁業者にとって不平等な世界になってしまうと指摘。「IUU漁業に対しては強く当たって、問題を解決していかなければならない」と強調しました。
オディーさんは、花岡さんからカナダの消費者の意識について問われると、安い魚を求める点では日本の消費者と変わらないが、MSCなどのエコラベルへの意識が高まっていると答えました。遠方からでも監視活動を支援する理由については、「カナダも日本も、世界の中で一つの海洋を共有しており、海洋資源を共有していると考えるからだ」と語り、ビジネスの観点からも、「より持続可能な漁業資源が得られて、違法な水産物が売れなくなっていくのは良いことだ」と述べました。
「なぜIUU漁業があるのか」「どうすればIUU漁業のない海を実現できるか」というモデレーターからの問いかけに答えて率直に意見交換
パトロールの継続について、福田さんは北太平洋公海への船の派遣に多額の費用がかかることを認め、予算的な限度もある中で、衛星や音響技術などを利用した新しい技術を活用し、「国際協調を強化しながら、効率的に、広い海をできるだけカバーしていきたい」と述べました。
また、オディーさんは、パトロールには非常にコストがかかるという福田さんの指摘に同意したうえで、IUU漁業のない海を実現するには、①情報共有や技術開発などにおける各国の連携と協働、②IUU漁船の摘発率を上げることによる抑止、③エコラベル認知度向上に向けた消費者の意識改革、の3つが必要だと述べました。
最後に、福田さんはサンマやサバの管理には国際協力が不可欠だと強調。IUU-AAについては、「勇気づけられる取り組み」としながらも、「今後の発展を楽しみにしている」と述べるにとどめました。一方、オディーさんは「海からの巨大な贈り物を持続可能な方法で利用することが私たちの責任である」として、IUU-AAへの参加を呼びかけ、「国として協力する必要があるが、同時に市民社会として、産業として、そして市民個人として協力することで、海の恵みを将来にわたり享受することができる」と述べました。
冒頭、WWFジャパンの植松周平さんは、IUU漁業の規模が年間7兆円に達するという最近のデータを改めて紹介し、日本の輸入水産物の約3割がIUU漁業由来である可能性、さらにIUU漁業が「奴隷労働」などの深刻な人権問題の温床になっていることを指摘しました。
WWFジャパンの植松周平さん
セイラーズフォーザシー日本支局(SFSJ)の井植美奈子さんは、持続可能な水産業のために、2013年頃から市民社会組織が協力してIUU漁業撲滅に向けて取り組んできたことを紹介。IUU-AAにはサポーターとして多くの市民社会組織も加盟しています。SFSJの代表としてIUU-AAの会議にも参加している井植さんは、「各国の情報を日本政府に伝えると同時に、日本の努力を世界にアピールする役割を果たそうとしている」と述べました。
セイラーズフォーザシー日本支局(SFSJ)の井植美奈子さん
「IUU漁業」という問題の社会的浸透について、井植さんは、2018年に福島県で開催された太平洋・島サミットでは「IUU漁業」という言葉を知っている参加者がほとんどいなかったエピソードを紹介しつつ、この10年間で、「水産業界や流通サプライチェーンの関係者には相当浸透したと感じる」と述べました。
植松さんは、「十数年前はクロマグロの減少で日本が世界中から叩かれていた」と振り返り、この10年間で太平洋クロマグロの資源量が約10倍にまで回復したこと、また、資源管理やIUU漁業対策のために日本主導でNPFC(北太平洋漁業委員会)を立ち上げて対策に乗り出したことを、目覚ましい変化として挙げました。
さらに植松さんは、約400種類もの魚を食べる日本では絶対にできないと言われていたIUU漁業対策としての輸入規制を実現したことを挙げ、「今では諸外国から『日本を参考にしたい』という声が上がっている」と述べました。井植さんも、2018年の漁業法改正、2020年の水産流通適正化法の成立など、立て続けに大きな法規制上の進展があったことを改めて評価しました。
第2部でもモデレーターを務めた花岡さん(左)
一方、植松さんは「奴隷労働で獲られた魚、食べたい人いますか?」と来場者に重い問いを投げかけ、「でも実際、我々も食べているかもしれない。『IUUのものイヤです』と言ってください。少しずつの動きが世の中を変える」と訴えました。
IUU漁業による水産物の流入を防ぐために、企業が自ら規制の強化を求める動きがあり、植松さんは、日本生協連、イオン、セブン&アイホールディングス、マルハニチロ、ニッスイといった大手企業の名前を挙げました。井植さんは2024年に大手企業からの署名が集まった背景について、「1社だけで取り組んでは競争力が下がる。システムの変化のためには、みんなで一緒にやらないと成り立たない」と説明しました。
魚を食べ続けられる未来に向けて、ビジネスと市民社会の役割についてディスカッション
最後に、花岡さんはアジア地域での連携の必要性に触れ、植松さんは日本生協連がインドネシアで持続可能なエビの養殖のために投資している事例を紹介。井植さんは2025年2月に韓国・ソウルで開催された「CFT(Coalition for Fisheries Transparency)」の東アジア戦略会議に参加したことを踏まえ、「韓国も中国も台湾も日本も、全員が同じテーブルに着けるのは非政府組織だからこそ」と市民社会の役割を強調しました。
ブルーオーシャン・ドームは、来場者がまず水の循環のインスタレーションを鑑賞し、次に海洋プラスチックの映像に衝撃を受け、その先にトークイベント会場があるという構造でした。そんな来場者に、登壇者もスタッフも「ぜひ話を聞いて行ってください」と呼びかけ、「IUU漁業」を知ってもらう貴重な機会となりました。時には立ち見もあった、40席ほどの小ぢんまりとした会場は語り手と聞き手の距離が近く、大規模会場に業界関係者が集まったTSSS 2025とはまた違った雰囲気の中で、熱いトークセッションが繰り広げられました。
10月3日、大阪・関西万博の民間パビリオン「ブルーオーシャンドーム」への来場者が、トークイベント会場であるドームCに自然に誘導され、IUU漁業の話を初めて聞いてみる機会になりました。
モデレーターを務めたシーフードレガシーの花岡和佳男さんは、「みなさん、IUUって聞いたことありますか? 違法・無報告・無規制な漁業が、世界の海、責任ある漁業に取り組む漁師さん、そして魚を食べている僕たちの生活を脅かしています」と呼びかけ、来場者の多くが「IUU漁業」という言葉を初めて聞く場で問題の所在を知ってもらう貴重な機会となりました。
登壇者紹介
第1部:
福田工
水産庁 資源管理部審議官
ニーアル・オディー
カナダ漁業海洋省 上級次官補(戦略政策担当)
第2部:
植松周平
WWFジャパン 自然保護室 海洋水産グループ IUU漁業対策マネージャー兼水産資源管理マネージャー
井植美奈子
セイラーズフォーザシー日本支局 理事長兼CEO
モデレーター:
花岡和佳男
シーフードレガシー創立者/代表取締役社長
北太平洋公海におけるIUU漁業対策の取り組み
はじめに、水産庁の福田工さんが北太平洋公海におけるIUU漁業対策の取り組みを報告しました。
「そうした漁船が、日本のEEZの境界線にびっしり張り付くように操業しており、年間約300隻のこれら外国漁船のうち約70隻がIUU漁船と推測された」と福田さんは振り返ります。これらの違法漁船は船名を隠すためにペンキを塗ったり、船の左右で異なる船名を表示したり、別の船と同じ船名を使用したりするなど、取締りを逃れるための工作を行っていました。
状況を改善するため、2015年にEU、カナダ、韓国、台湾、中国、日本、バヌアツ、米国、ロシアの9カ国・地域が参加する「北太平洋漁業委員会(NPFC)」が設立されました。NPFCは2018年から公海上での乗船検査を開始。通常、公海にいる外国漁船に対して他国の取締船は検査に入れませんが、NPFCの枠組みにより、外国漁船への検査が可能となりました。違反が見つかった場合には旗国政府に対処を求め、対応しない場合にはIUU漁船リストに掲載して世界各国に周知するという仕組みです。
カナダの積極的関与――北太平洋警備活動とIUU漁業アクションアライアンス
続いて、カナダ漁業海洋省のニーアル・オディーさんが、カナダの取り組みを報告しました。オディーさんは、IUU漁業による違法取引が世界経済に対し、年間で日本円にして推定7兆円以上の損失をもたらしていると指摘します。
北太平洋警備活動は、カナダと日韓米の多国間協力による公海パトロールです。3回目となった2025年、カナダの巡視船には日本の水産庁の職員も28日間派遣され、数百隻の漁船を監視し41回の公海検査を実施。サメのヒレだけを獲って魚体を生きたまま海に捨てるシャークフィニングや虚偽報告など、法規制の違反が疑われる事例が39件ありました。オディーさんは「協力して取り組むことが、監視を強化し、ギャップを埋める唯一の方法」と強調しました。
折しも大阪・関西万博が開催された2025年。5月から7月まで、洋上監視活動を実施したカナダ沿岸警備隊「サー・ウィルフレッド・ローリエ号」は、大阪港に特別寄港し、「乗組員は万博会場のパビリオンで一般の人々と交流することができた」とオディーさんは話しました。
IUU漁業のない海を実現するために不可欠な国際協力
第1部のトークセッションでは、モデレーターの花岡和佳男さんが「なぜIUU漁業があるのか」と「どうすればIUU漁業のない海を実現できるか」という2つの問いを提示し、議論しました。
オディーさんは、花岡さんからカナダの消費者の意識について問われると、安い魚を求める点では日本の消費者と変わらないが、MSCなどのエコラベルへの意識が高まっていると答えました。遠方からでも監視活動を支援する理由については、「カナダも日本も、世界の中で一つの海洋を共有しており、海洋資源を共有していると考えるからだ」と語り、ビジネスの観点からも、「より持続可能な漁業資源が得られて、違法な水産物が売れなくなっていくのは良いことだ」と述べました。
また、オディーさんは、パトロールには非常にコストがかかるという福田さんの指摘に同意したうえで、IUU漁業のない海を実現するには、①情報共有や技術開発などにおける各国の連携と協働、②IUU漁船の摘発率を上げることによる抑止、③エコラベル認知度向上に向けた消費者の意識改革、の3つが必要だと述べました。
最後に、福田さんはサンマやサバの管理には国際協力が不可欠だと強調。IUU-AAについては、「勇気づけられる取り組み」としながらも、「今後の発展を楽しみにしている」と述べるにとどめました。一方、オディーさんは「海からの巨大な贈り物を持続可能な方法で利用することが私たちの責任である」として、IUU-AAへの参加を呼びかけ、「国として協力する必要があるが、同時に市民社会として、産業として、そして市民個人として協力することで、海の恵みを将来にわたり享受することができる」と述べました。
市民セクターの取り組みと10年間の変化
第2部では市民セクターの取り組みを伝えるトークセッションが行われました。冒頭、WWFジャパンの植松周平さんは、IUU漁業の規模が年間7兆円に達するという最近のデータを改めて紹介し、日本の輸入水産物の約3割がIUU漁業由来である可能性、さらにIUU漁業が「奴隷労働」などの深刻な人権問題の温床になっていることを指摘しました。
植松さんは、「十数年前はクロマグロの減少で日本が世界中から叩かれていた」と振り返り、この10年間で太平洋クロマグロの資源量が約10倍にまで回復したこと、また、資源管理やIUU漁業対策のために日本主導でNPFC(北太平洋漁業委員会)を立ち上げて対策に乗り出したことを、目覚ましい変化として挙げました。
さらに植松さんは、約400種類もの魚を食べる日本では絶対にできないと言われていたIUU漁業対策としての輸入規制を実現したことを挙げ、「今では諸外国から『日本を参考にしたい』という声が上がっている」と述べました。井植さんも、2018年の漁業法改正、2020年の水産流通適正化法の成立など、立て続けに大きな法規制上の進展があったことを改めて評価しました。
サカナを食べ続けられる未来に向けて
IUU漁業がない世界、魚を食べ続けられる未来に向けて、ビジネスと市民社会にはどんな役割があるか、という花岡さんの問いに対して、井植さんは、イギリスのオックスフォード大学の食堂でメニューに「Sustainably caught salmon(持続可能な方法で獲られた鮭)」と表示されていたエピソードや、持続可能なシーフードのリストを出す活動を続けているSFSJの「おいしく、たのしく、地球にやさしく。」というキャッチコピーを紹介。サプライチェーンが持続可能なシーフードを調達し、それを楽しく提供することの重要性を強調しました。
IUU漁業による水産物の流入を防ぐために、企業が自ら規制の強化を求める動きがあり、植松さんは、日本生協連、イオン、セブン&アイホールディングス、マルハニチロ、ニッスイといった大手企業の名前を挙げました。井植さんは2024年に大手企業からの署名が集まった背景について、「1社だけで取り組んでは競争力が下がる。システムの変化のためには、みんなで一緒にやらないと成り立たない」と説明しました。
ブルーオーシャン・ドームは、来場者がまず水の循環のインスタレーションを鑑賞し、次に海洋プラスチックの映像に衝撃を受け、その先にトークイベント会場があるという構造でした。そんな来場者に、登壇者もスタッフも「ぜひ話を聞いて行ってください」と呼びかけ、「IUU漁業」を知ってもらう貴重な機会となりました。時には立ち見もあった、40席ほどの小ぢんまりとした会場は語り手と聞き手の距離が近く、大規模会場に業界関係者が集まったTSSS 2025とはまた違った雰囲気の中で、熱いトークセッションが繰り広げられました。